在宅医療・総合診療における現象学的患者理解
以前より、現象学の研究において、S.K.Toombs著作の「病いの意味―看護と患者理解のための現象学」という本を探していました。同書籍は既に絶版となっており、市販されていないことから諦めていましたが、知り合いの本屋さんが新潟青陵大学図書館で除籍となり廃棄される寸前にこの本を探し出してくれました。そういった経緯で私の手元に届いた貴重な書籍です。新潟青陵大学図書館と知り合いの本屋さんに感謝です。私にとっては重要な参考書で、難解な部分も多くありましたが、なんとか通読しました。
わたしが在宅医療に取り組んで、すでにおよそ30年が経過します。この間、およそ1000件以上の患者さんとそのご家族に接してきました。これまでの在宅医療の経験を通して10数年前から八幡浜市で多職種連携協働の体制を構築、発展させてきました。
このような事情から、S.K.Toombs著「病いの意味」の内容を、私なりの理解で要約して残しておくことはそれなりに意味のあることだと思っています。
S.K.Toombsは「病いの意味」において、病気(disease)を単なる身体機能の異常としてではなく、患者自身が経験する「病い(illness)」として捉える重要性を示しました。現象学の立場から、病いは身体の障害だけでなく、生活世界や自己理解そのものを変化させる経験であると考えます。
在宅医療や総合診療では、患者は生活者として地域や家庭の中で病いを生きています。そのため医療者は疾患の診断や治療のみならず、「病気によって何ができなくなったのか」「何に困り、何を大切にしているのか」といった患者の主観的経験に目を向ける必要があります。例えば歩行障害という医学的所見も、患者にとっては「買い物に行けない」「家族との時間を楽しめない」といった生活上の意味を持ちます。このような病いの意味を理解することが患者中心の医療につながっていきます。
また、現象学的アプローチでは患者の語りを重視します。患者が語る不安や希望、喪失感は検査データだけでは把握できない重要な情報です。特に在宅医療では、住環境や家族関係、地域とのつながりなど生活世界を直接理解できるため、患者を疾患ではなく一人の人間として包括的に捉えることが可能となります。
さらに、この視点は多職種連携にも有用です。医師、歯科医師、看護師、リハビリ職、薬剤師、社会福祉士、医療ソーシャルワーカー(MSW)、介護福祉士、ヘルパー、ケアマネジャー、緩和ケアコーディネーターなどが、それぞれの専門性から患者の生活や価値観に関する情報を共有することで、患者理解はより深まることになります。カンファレンスにおいても病状やADLだけでなく、「患者にとって良い生活とは何か」「何を望んでいるのか」を共有することが重要です。
以上より、Toombsの現象学的視点は、在宅医療・総合診療において患者の病いの経験と生活世界を理解し、多職種が協働してその人らしい生を支えるための重要な理論的基盤であると考えています。


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