熱中症の症状と対策
近年、夏の暑さは厳しさを増し、35度を超すことも多く、地域によっては40度を超す記録的な暑さが連日報道されるようになりました。
西日本豪雨の災害地でも容赦なく強い日差しが襲いかかっています。
それにともなって、増加しているのが「熱中症」です。当院にも熱中症で受診される方が増加しています。そこで、熱中症についてまとめてみました。
<熱中症:4つの分類>
「熱中症」とは、“高温・多湿の環境に身体が適応しないことによって起こる様々な症状の総称”で、進行状況や内臓、身体機能への影響によって、細かく4つに分類されます。
■熱失神 |
暑さによって末梢血管が拡張し、血圧が低下する |
■熱けいれん |
大量の発汗によって、ナトリウム量が低下する |
■熱疲労 |
大量の発汗によって、脱水状態が進行する |
■熱射病 |
熱中症の分類の中で最も重症 40度以上の高熱がみられ、発汗が止まり、意識障害が起こる |
最近では、上記のような分類では、実際には見分けは難しく、基準もあいまいであることから、重症度に応じて診断基準を分かりやすくした、Ⅰ~Ⅲ度分類が適用されることも多くなってきました。
Ⅰ度は軽症とされ、熱失神・熱けいれんに当てはまります。
Ⅱ度は熱疲労に分類されます。
Ⅲ度は重症で、熱射病に当てはまります。
①中枢神経症状
②肝臓・腎臓機能障害
③血液凝固異常のうち1つでも症状に見られる場合、Ⅲ度と診断され、
Ⅰ度にもⅢ度にも当てはまらないものがⅡ度と診断されます。
<重症度によって異なる症状>
適切な対処がなされないと、発症から時間が経つにつれて、進行し重症化していきます。軽度のうちに症状に気が付き、適切な対処をし、症状の進行を食い止めることが大切です。そのためにも、症状をよく知っておくようにしましょう。
■Ⅰ度:熱失神・熱けいれんの症状
主な症状:大量の発汗・めまい・立ちくらみ(失神)・筋肉痛・こむら返り
顔色が悪くなり、フラフラしたり、ボーっとしたりしている状態がみられたら、
休憩と適切な塩分と水分の補給が必要です。Ⅰ度の場合には、体温に変化は見られません。筋肉のけいれんや足がつるなどの状態になることもあります。意識を失っても一時的で、適切な対処で改善がみられる場合には、症状の悪化が無いかよく観察し、状態を見守ります。
■Ⅱ度:熱疲労の症状
主な症状:頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感
判断力や注意力が著しく低下し、ぐったりとしている場合には要注意です。
すぐに十分な塩分と水分の補給に加えて、環境の改善を行います。医療機関へ搬送し、入院が必要になることがあります。体温は40度以下ですが、対処が遅れるとⅢ度に移行してしまうため、管理が大切です。口から水分を摂れない場合には、点滴が必要になります。
■Ⅲ度:熱射病の症状
主な症状:意識障害・40度以上に体温が上昇・発汗停止・皮膚の乾燥・昏睡
意識障害や、大量に出ていた汗が止まり、皮膚の渇きがある場合には、一刻も早い冷却と病院への搬送が必要です。高熱によって、肝臓や腎臓など臓器が影響を受ける危険が高く、後遺症が残る場合や、死に至ることがあります。特に脳は熱による影響を受けやすいため、発症後の冷却がその後を左右します。
のどが渇いたと感じた時は、すでに脱水状態であると覚えておいてください。
一度症状が出ると、進行が早いです。少しの異変でも、すぐに環境を改善するように心がける必要があります。顔色や表情など、普段と違った兆候がないかよく観察するようにしましょう。
<予防のポイント>
熱中症は、応急処置の速さも大切ですが、やはり予防が最も重要です。
予防のポイントは5つです。
5月頃からしっかり準備して熱中症を予防しましょう。
1 気温・湿度のチェック
熱中症は高温・多湿の環境に気をつけることが大切ですから、気温と湿度のチェックを怠らず、室内では、エアコンや扇風機で環境を整えることが必要です。
高温環境を示す数値は「暑さ指数」を参考にするようにします。気温・湿度・輻射熱から算出する指数で、夏になると毎日予報がでますので、気にかけて服装などを決めると良いでしょう。
2 こまめな水分補給
暑い時は、目に見えなくても多量の発汗により、水分を失っています。喉の渇きを感じる前に、こまめに水分を補給することが必要です。特に運動や労働時は、注意が必要です。体を動かしている時は、15分~20分おきには休憩をとり、水分補給しましょう。
3 暑い中での無理な運動を避ける
運動時は熱中症のリスクが高まります。最も暑い時間の活動を避け、運動時間を短縮するなど、リスク管理が必要です。普段より多く休憩をとるようにして、体調によっては、中止しなければいけません。特に運動経験が少ない人は、リスクが高まります。暑い時に急に運動を始めるよりも、日頃から運動をし、体を慣れさせておく必要があります。
4 服装
吸水性や速乾性に優れている通気性の良い素材を選ぶようにしましょう。体を締め付けすぎないように気をつけ、熱を逃す工夫をします。淡い色の方が暑さを吸収しにくいので、白などの色を選ぶようにして、帽子や日傘で日差しを遮るようにします。
5 体調管理
疲労や体調不良が、熱中症の発生リスクを高めます。寝不足や食生活が乱れないように、日頃から体調管理を怠らないようにすることが大切です。
<予防する飲食物は>
熱中症を予防するためには、熱中症にかからないようにする体を作ることが大切です。その基本となるのが、食生活です。
1日3食バランスのとれた食事と適度な水分補給によって、健康維持を心がけましょう。
■熱中症予防に良い食材
熱中症を予防する食事も基本は、5大栄養素をまんべんなく摂取するバランスのとれた食事です。暑いからといって、軽い食事だけで済ましていると、体力が低下し、暑さへの抵抗力が低くなってしまうので、しっかり食べるようにしましょう。夏に旬の食材は、体を冷やし、食欲を増進させる働きを持つものが多いので、
旬のものを積極的に食べるのがオススメです。また、積極的に摂ると良いのは、疲労回復を促すビタミンB1やクエン酸、汗で失ってしまうカリウムなどです。
■熱中症予防に良い飲み物
運動時は、良く冷やして吸収を良くしたスポーツドリンクや、水1リットルに、砂糖大さじ4、塩小さじ2分の1を加えた簡易の経口補水液を用意しておきましょう。運動前にコップ一杯程度、運動中はこまめに摂取を心がけます。運動後は、運動前の体重と比較して、減っているようなら、水分と食事で、体重を戻すようにします。日常生活では、スポーツドリンクは糖分が多量に含まれているので避けた方が良いです。ジュースも同様で、糖分の過剰摂取につながるので避けましょう。なるべくカフェインの含まれていないお茶や水を常温で飲むようにします。カフェインが含まれたお茶は、利尿作用があり水分を排出してしまいます。
<応急処置>
熱中症の症状は、刻一刻と進行していきので、発症後すぐの対応が非常に大切となります。一刻も早い対処のために、熱中症の応急処置は「FIRE」と覚えておくと良いでしょう。
実際にはこれを逆順で行います。
・E:Emergency 緊急事態の対応
まずは、意識の確認を行います。反応が無ければ、気道確保・呼吸の確認・心拍の確認と、緊急時の対応を行い、救急要請をします。意識があれば、名前や日付など簡単な質問で、意識障害がないかどうか見極めましょう。言動に異常があれば、すぐに搬送準備をします。
・R:Rest 安静
運動や労働を行っている場合にはすぐに中止し、休息をとります。日陰で風通しの良い場所や、冷房の効いた室内などに移動し、高温多湿の環境を改善して安静状態を保ちます。寝かせる時は、脳への血流が増えるように、仰向けで寝かせて足を高くするか、楽になれるよう横向きに寝かせます。
・I:Ice 冷却
衣類を緩め、靴は脱ぎ、なるべく熱が放散しやすい状態にします。水や濡れたタオルで体を濡らし、風を送ることで、気化熱により体から熱が奪われます。用意できる場合には、氷や冷えたペットボトルを利用して、脇の下や首を冷やします。
・F:Fluid 水分と塩分の補給
熱中症の場合には、水だけでなく、塩分を同時に摂取します。水1リットルに、砂糖大さじ4、塩小さじ2分の1を加えた簡易の経口補水液を準備しておくと良いでしょう。市販のスポーツドリンクには塩分が足りない商品もあるので、そうしたスポーツドリンクを飲む場合には、塩分を同時に摂取する必要があります。呼びかけに応じない場合や、吐き気がある場合など、自分で飲めない場合にはすぐに救急搬送し、点滴による水分補給が必要です。ここで無理に経口補水を行うと、誤飲する危険が高いので避けなければなりません。
■症状に合わせた対処
・Ⅰ度
筋肉のけいれんやめまいの症状がみられたら、すぐに休息をとり、高温多湿の環境を改善し、衣服を着替えるなどして、体の熱を放散します。水分補給をして十分に症状が改善するまで安静状態を保ちます。症状が悪化するようであれば、すぐに病院に搬送する必要があるため、一人にしないようにして観察します。
・Ⅱ度
頭痛・嘔吐・倦怠感などの症状が現れたら、直ちに高温多湿の環境を改善し、安静にします。自分で水分を補給できる場合には、水分と塩分の補給をし、病院に搬送します。重篤な状態に移行しなければ、数時間の経過観察で帰宅が可能です。
高齢者や持病がある場合や、経過が良好でない場合は、入院が必要になります。
・Ⅲ度
意識障害があり、体温が40度以上、発汗の停止などの症状が現れたら、直ちに救急搬送の準備を整えて、急速に体を冷やします。救急隊が来るまでは、「FIRE」を実施し、悪化を防ぎます。意識が無い場合には、気道確保・呼吸の確認・心拍の確認が必要です。
<「環境」と「身体」の2大原因>
熱中症は、野外スポーツ時は注意されていることが多いのですが、室内や住居での発生も多く、誰にでも起こる危険があります。
しかし、同じ環境下にいても、熱中症になる人とならない人がいます。
熱中症の発症には大きく分けて「環境」と「身体」の2つの原因があります。
■原因1 環境
・気象
熱中症は高温・多湿の環境で多発します。特に風が弱く、日差しが強いなど条件がそろうと発生が増加します。
・時期
真夏の炎天下というイメージが強い熱中症ですが、実は6月頃から増え始めます。ピークは7月下旬で徐々に減っていきます。これは、体が暑さに慣れていないためです。梅雨明けで急激に気温が上がる頃に注意が必要です。
■原因2 身体の状態
・性差・年齢差
全体でみると男性の発生が多いとされます。乳幼児と高齢者は性別に関係なく発生が多い傾向にあります。特に高齢者は死亡率も高く注意しなければなりません。
・発生状況
乳幼児と高齢者においては、日常生活での発生が多いです。乳幼児の場合には、体温調整機能が未熟で発汗量が多いことが原因で発生します。自身で体調不良を訴えることができない事も多いので、よく観察が必要です。高齢者の場合には、住居での発生が多く、周囲が発症に気が付かないことも多く危険です。加齢によって暑さに対する感覚が鈍り、冷房を使ったり衣服を調整したりする対処が遅れることが原因ですので、周囲からの注意喚起が必要です。
その他、10代ではスポーツ時、40代・50代では労働中の発生が多い傾向にあります。
・持病
持病があり普段から薬を服用している、風邪をひいている、疲労がたまっているなど、抵抗力が低下している場合はリスクが高くなります。発熱や下痢をしている場合も脱水を起こしやすく危険です。発熱や下痢の症状が、すでに熱中症の症状である可能性もありますので、気をつけましょう。
(追記)
「夏血栓」について
熱中症Ⅲ度は重症で、熱射病に当てはまりますが、
①中枢神経症状
②肝臓・腎臓機能障害
③血液凝固異常のうち1つでも症状に見られる場合、Ⅲ度と診断されます。
そのうち血栓形成(血管内でできる血の塊)も血液凝固異常のひとつで、「夏血栓」として別に扱われることがあります。
夏血栓とは、文字通り夏に起こりやすい血栓のことです。
心筋梗塞や脳梗塞などに代表される「血栓症」は、血液中にできた血栓が血管を詰まらせることにより起こる病気です。夏場の、特に気温が上昇した状態で、
発汗による脱水から血液がドロドロになって、血栓症は発症しやすくなります。
「血栓症による死亡率と気温に関する調査」によると、65歳以上の心筋梗塞患者は、気温が30度を超えると死亡率が上昇しています。また脳梗塞患者でも、気温が32度になるともっとも低い死亡率から1.66倍に跳ね上がっています。
今年の夏も猛暑となっており、熱中症への注意喚起が行なわれていますが、猛暑下で増加する「血栓症」への注意も必要です。
熱中症では、めまいや失神、吐き気、冷や汗、頭痛といった症状が見られますが、
実は夏血栓でも同じような症状が見られます。一般的に、血栓症は冬のイメージが強いのですが、夏血栓とは、大量に汗をかくことで、血液中の水分が減り
血栓ができやすいことが主な原因の、夏にも多く発症する血栓症のことです。
また、節電の影響で室内が高温になることが予想されるため、普段の生活からこまめに水分補給することを心がけましょう。
夏血栓で、血管が詰まりやすくなる気温の目安は32度です。普段からこの目安の気温に注目し水分補給を増やすことは、夏の血栓予防には有益です。
さらに、ビールなどのアルコール飲料は、利尿作用があるため、体内の水分不足を引き起こし、血栓ができやすいドロドロした血液になる原因となりますので、注意しましょう。