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医師法第二十条と死亡診断に関する誤解

在宅医療と医師法第二十条

先日、在宅医療で関わっておられる連携医師から、X日午後3時に最終診察した末期がんの患者様が、翌X+1日の午前10時にお亡くなりになったとのこと。連絡を受けたときは、所用で松山に出張されており、患家に赴くことができるのは、午後3時くらいになるが、死亡診断書はその時に発行してもよいかとの質問をいただきました。

この事例に関して、医師法:第二十条を引用します。

 

『医師法:第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。』

 

したがって、本事例では、最終診察から24時間以内にお亡くなりになっていますし、X日に余命がここ一両日中とご家族にもお話しされており、十分に近々の臨終が予測されていますから、死亡診断書は松山から帰られて発行することに何ら法的な問題はない旨お話させていただきました。

 

しかしながら、この法的な解釈は、最終診察から24時間経過後であっても、診療していた疾病で死亡した場合には、死後診察を行えば死亡診断書を発行することができます。その根拠は厚生省昭和24.4.14医発385号医務局長通知によって説明されています。下記に引用しました。

 

『医師法第二十条但書に関する件  

     (昭和二四年四月一四日 医発第三八五号)  

     (各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)  

 標記の件に関し若干誤解の向きもあるようであるが、左記の通り解すべきものであるので、御諒承の上貴管内の医師に対し周知徹底方特に御配意願いたい。  

                   記  

1 死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、苟しくもその者が診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第二十条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない。  

  法第二十条但書は、右の原則に対する例外として、診療中の患者が受診後二四時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診察しなくても死亡診断書を交付し得ることを認めたものである。  

2 診療中の患者であっても、それが他の全然別個の原因例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付すべきである。  

3 死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである』

このように、受診後24時間以上を経過して死亡した場合には、死亡診断書ではなく死体検案書になる、ということは書いてありませんし、診療中の当該疾患で明らかに死亡された場合は、死後診察をしてそれが確認できれば死亡診断書を発行することができます。

 

一つの誤解は以下の事件に原因があるように思われます。

東京地裁八王子支部の昭和44327日の判決理由が影響を与えた事実が挙げられます(刑裁月報13313頁に掲載)。

『この事件は入院中の患者(女、63歳)が屋外療法実施中に行方不明となり、1日半か2日ぐらい経ってから、病院の北500メートルの国有林内の沢で死体として発見された。同病院に搬入された後同所で検案した際に、異状があると認めたにもかかわらず24時間以内に所轄警察署にその旨届出をしなかった。・・・死亡診断書に虚偽の記載をした上、市役所に提出した。』

という事件で、医師法違反、虚偽診断書作成、同行使、医療法違反で罰金2万円に処せられました。

この判決理由の中で次のようなことが述べられています。

「・・・特に右患者が少なくとも24時間をこえて医師の管理を離脱して死亡した場合には、もはや診療中の患者とはいい難く、したがってかかる場合には当該医師において安易に死亡診断書を作成することが禁じられている(医師法20条参照)のであるから、死体の検案についても特段の留意を必要とするといわねばならない。」

この判決が、「死後24時間以内に診察をしなかったら検案になる」という解釈の普及に拍車をかけたように思われます。

 

在宅医療での看取りに関する死亡診断の誤解から、在宅医療に踏み出せない医師も多いのではないでしょうか。