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在宅医療とリエゾン医学

「リエゾン認知症医学」の提案

平成24年5月に八幡浜在宅医療研究会を立ち上げて以来、18回の講演会と79回の緩和ケア症例検討会(令和3年2月現在)を開催し、多職種参加でスキルアップを図ってきました。この活動で「チーム医療・ケア」「多職種協働」の思想がこの八幡浜に根付いてきたと思います。これには多くの医療職、介護職、保健分野で働く多くの人々の弛(たゆ)まない努力のたまものと思います。

しかしながら、時に情報共有の場面で、それぞれの考え方や立場の違いから、齟齬(そご)が生じることが時にあります。以下はあるケアマネからの相談です。

「高齢の方が急性身体疾患で入院した時、環境の変化と身体的な不調のため、入院中に認知機能の低下、せん妄が発生することがよくあります。病院スタッフの不足などもあり、また現在コロナ禍にあってますますスタッフ不足は進んでいることから、担当医は入院継続が不可能とのことで、担当ケアマネに在宅サービス依頼、退院という流れになることがしばしばあります。このような中で担当ケアマネの思いとしては、退院調整の前にその要因分析や対応に家族や在宅で関わっている在宅医を含む関係者と一緒に検討して身体疾患の入院治療継続ができないものか。」

これはよく相談される内容で、認知症専門医が何かお手伝いできないものか考え込むことがあります。

そこで「リエゾン」について考えてみたいと思います。

リエゾンとは、専門的な連携や協力を意味する、コミュニティ心理学における重要な概念です。地域精神医療、地域精神保健福祉、総合病院、学校などのコミュニティにおいて、クライエントに関わるさまざまな領域の専門家が、クライエントの問題解決やQOL(生活の質)向上のために行う、チーム医療、チーム保健福祉の活動形態を指します。

具体的には、互いの専門性に応じて、指導者であるコンサルタントと被指導者であるコンサルティという役割を交代して行い、チームとして関わっていきます。

リエゾン精神医学という場合には、一般的な身体医療の中で患者が抱える精神的な問題について、身体科と精神科が連携する、つまり、医療チームに精神科医が加わることを指します。

病院や学校といった、システムが持つ機能を最大限に活かすことを目的に、メンバー間の相互作用を促進するのがリエゾン機能の意義と言えます。

リエゾンの関連キーワードとしては、「コミュニティ心理学」「リエゾン精神医学」「チーム医療」「コンサルテーション」などがあります。

例として、医療現場における終末期医療のケースを考えてみます。

医学的治療においては、医師がコンサルタントの立場となり、他の専門家、つまり看護師や臨床心理士などがコンサルティとなります。

入院生活の援助に関しては、看護師がコンサルタントに、医師や臨床心理士がコンサルティとなります。

そして、患者の不安や死への恐怖、抑うつといった心理的問題に関しては、今度は臨床心理士がコンサルタントに、医師や看護師がコンサルティとなるのです。

このように、相互に役割交代をしながら連携し、患者と関わっていく形をとっていくのがリエゾン機能です。

リエゾンと似たものにコンサルテーションがあります。

これらは、明確な区別なくほぼ同義のものとして扱われることも多いですが、厳密に言うと、以下の点が異なるとされています。

コンサルテーションは、何か問題や症状などが生じたときに、その専門家に依頼や相談をすることを指します。

一方、リエゾンは各分野の専門スタッフらが、あらかじめ普段から検討会などによる連携を取り、問題や症状の悪化の予防や早期発見、また、対応するスタッフや家族の教育にもあたるのが特徴です。

また、コンサルテーションではコンサルタントである専門家から得られた助言を実際のケースに取り入れるかは、コンサルティの判断に委ねられますが、リエゾンではスタッフ間の話し合いにより、治療方針を決めるところも相違点として挙げられます。

こう考えてくると、「リエゾン精神医学」では若年者も含めた広い範囲での精神医学一般については有効ですが、現在の高齢者医療の現場では、認知症に特化した「リエゾン認知症医学」(私の造語)という概念があってもいいのではと考えています。

アロイス・アルツハイマー博士