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意思決定能力を欠く患者さんにおいて、医療者がどのようにその意思決定を推し量るか

アドバンス・ケア・プランニングとコンセンサス・ベースド・アプローチ
自分の臨死期の対応についてリビング・ウィルとして事前に意思表示することをアドバンス・ディレクティブといいます。さらに、将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養について患者家族とあらかじめ話し合うプロセスのことをアドバンス・ケア・プランニングといいます。
昨日(平成27年10月30日)、50歳になる男性の死に立ち合いました。尿膜管癌で、発症12年を経過しておりました。これまで何度も再発を繰り返し、治療への反応もよく、腎瘻、人工肛門を造設されていましたが、何度も回復し仕事にも復帰されていました。
平成27年8月に再発。この時にはすでに腹膜播種、肺転移も見つかり、治療にも反応せず末期癌の様相を呈していました。ご本人は在宅での療養を希望され、当院で在宅がん緩和ケアを主体に定期的に訪問診療・看護をすることになりました。予後の説明も冷静に受け止められ、4人の息子さん(上は高校生、下は小学生)にも、自身の口から今後の起こりうるであろう状態を説明され、ご家族も献身的に看護されました。経過中、イレウスが続き、サンドスタチンの持続皮下注射を継続、痛み・呼吸困難感にはオピオイドを工夫しながら使用し疼痛緩和と呼吸困難感はほぼ完全にコントロールできたと思っています。信仰の厚い方で、最期まで自分自身の意思と尊厳を貫いた方でした。
がん疾患の場合は、これまでの経験からこのような形で患者さんの意思を確認できることも比較的多くあります。
しかしながら、認知症などの非がん疾患の場合にはそう単純ではありません。現実には、家族などの介護者が患者の希望を漠然と推し量りながら意思決定を迫られることが少なくありません。そこで、意思決定能力を欠く患者さんに対して適切な緩和ケアを提供するために米国内科学会が提唱したのがコンセンサス・ベースド・アプローチという以下の手順を通じて患者の代理人としての家族と信頼関係にある医療者との間で、推定される本人の意思を中心に統一した価値観を形成していく方法があります。

<コンセンサス・ベースド・アプローチ>
1、意思決定に参加する主要メンバーを明らかにする。
2、患者がどんな経過を経てこのような病態に至ったかを説明する。
3、患者の病状の予想される臨床経過を伝える。
4、患者の生活の質と尊厳について代弁する。
5、既存のデータと臨床経験に基づき進むべき方向を指し示す。

わが国の在宅の現場において、自らの意向を明瞭に表明することが容易でない高齢者が、非がん疾患を患って要介助状態に陥り年余にわたって徐々に弱っていく過程の中で、、超高齢社会は問題提起をしているのではないでしょうか。