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重症熱性血小板減少症候群について

重症熱性血小板減少症候群ウイルス(Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus)とは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に属するウイルスの一種。重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) の病原体として同定されたウイルスです。名称が長いので、しばしば同症候群の頭文字をとってSFTSウイルス (SFTSV) と呼ばれます。
2009年3月から7月にかけて、中国の湖北省および河南省で、原因不明の感染症が発生しました。2011年になって、Xue-jie Yuらによって患者の病理組織から抗原と核酸が発見され病原体と特定され、SFTSウイルスと名づけられました。その後、2013年になって日本でも感染が相次いで報告されています。なお、中国のSFTSウイルスと日本のSFTSウイルスは、遺伝子が似ており同一種であると考えられていますが、多少の違いから全く同じものではないと考えられています。また、日本の患者で確認されている4件は、いずれも外国への渡航歴のない患者です。このため、日本のSFTSウイルスは最近発生したものではなく、ウイルスそのものは昔から存在しており、患者の病原体の同定で始めて見つかったものと考えられています。
SFTSウイルスはフタトゲチマダニやオウシマダニといったマダニ科のダニから分離されており、マダニ科のダニが宿主であると考えられています。また、SFTSウイルスを持つダニに咬まれることにより感染すると考えられていますが、咬傷痕が確認できない場合もあります。
また、感染した患者の血液や体液との接触によるヒト-ヒト感染も報告されています。飛沫感染や空気感染は報告されていません。
中国の江蘇省における疫学調査では、ヤギ、ウシ、イヌ、ブタ、ニワトリの血清から抗SFTSV抗体が検出されています。また、山東省沂源県の報告ではヤギが83%という高い陽性率を示しています。なお、この報告においてヤギが選択されたのは、この地域でヤギがよく飼育されており、かつマダニの吸血を受けていることが多いからです。しかし、この動物が発病したかどうかは確認されていません。また、感染した動物との接触感染も考えられていますが、報告されていません。
SFTSウイルスは、患者の発生が日本では山口県、愛媛県、宮崎県、広島県でそれぞれ1件ずつ報告されています。また、SFTSウイルスであると確認されていない患者が9件あります。マダニ科のダニは日本国内に広く分布しているので、実際にはもっと広く存在するウイルスであると考えられています。なお、マダニ科のダニは主に森林や草地などの屋外に生息しており、屋内に生息するコナダニやヒョウヒダニとは分布が異なります。
中国では河南省、河北省、遼寧省、山東省、江蘇省、安徽省、浙江省で報告されています。
SFTSウイルスに感染した場合、潜伏期間6日~14日を経て、38度以上の発熱や消化器系への症状が発生します。重篤化すると死亡という不幸な転帰をとります。致死率は10 – 30%であると考えられています。
2009年にアメリカのミズーリ州でSFTSと似た症状を示す患者が2人報告され、患者の体内からSFTSウイルスと近縁のウイルスが発見されています。このウイルスは中国のものと近縁でありますが、同一のウイルスではないと考えられており、ハートランドウイルスと名付けられました。
アメリカにはSFTSウイルスを媒介するとされるフタトゲチマダニ、オウシマダニは分布しておらず、またこの地域における生態調査で捕獲されるマダニの99.9%がアメリカに広く分布するキララマダニ属のAmblyomma americanumであることから、本種が媒介するものと考えられていますが、ハートランドウイルスは検出されていません。
八西地域では、佐田岬半島部に多くマダニは生息しており、原因不明の血小板減少を伴う発熱患者を診たらSFTSを疑う必要があります。