第105回 八幡浜在宅緩和ケア症例検討会

  1. 場所:WEB会議
  2. 日時:令和5年6月2日(金);午後7時~8時30分

<症 例>
  70歳代前半 女性
<傷病名>
  両側乳癌、肺高血圧症、慢性呼吸不全
<挨 拶>
  開会挨拶;八幡浜医師会会長  芝田 宗生 医師
<発表者>
  座 長
   旭町内科クリニック
    森岡 明 医師
  ①家族状況などの説明
   八幡浜医師会居宅介護支援事業所
    清水 建哉 コーディネーター
  ②症例報告
   三瀬医院
    院長 片山 均 医師
  ③訪問看護ステーションからの報告
   訪問看護ステーションいまいスマイル
    松本 千恵子 看護師
<症例資料>
報告内容;PDFファイルをダウンロードしてご参照ください
第105回八幡浜在宅緩和ケア症例検討会資料

<議論の要点とコメント>

●ご本人が急変時、当初の在宅看取りについての確認があったにもかかわらず、ご家族が救急車を呼んでしまった。在宅主治医が救急隊に事情を説明して救急搬送せず、在宅主治医、訪問看護師の専門性が発揮され、最期まで在宅で看取ることができた事例であった。

●本事例を通じて、参加者から8050問題についての提示と今後の課題であることの指摘があった。

●8050問題(はちまるごーまるもんだい)は、長年引きこもる子供とそれを支える親などの論点から2010年代以降の日本に発生している高年齢者の引きこもりに関する社会問題である。背景には在宅介護問題がある事が多い。高齢者と中年の引きこもりは親子依存もしくは扶養義務による事も多い。

<職種別参加者数>

合計  76名
医師 10名 社会福祉士 3名
歯科医師 2名 ケアマネ 13名
保健師 3名 介護 6名
薬剤師 7名 その他 4名
看護師 26名 事務 2名

    <アンケートから>
    以下に参加者からのメッセージをまとめました。

  1. 看護師
    八幡浜市での在宅看取りについて、救急隊の方たちにも理解してもらっていることに驚きました。
    8050問題にも直面することもあり、どう対応してよいか、残された子供さんがどう生活していくのか心配しながら、親の関わりが終わると同時に関わりがなくなることが気になっていましたが、保健センターに繋げたらいいのかとつなぎ先がわかり安心しました。
  2. 看護師
    救急車を呼んでしまった家族の動揺、不安が大きかった気持ちが痛いほど伝わりました。医療者としてのターミナルケアと本人、家族が感じているターミナルケアには、ズレがあり、すり合わせを行う難しさは常にあると感じました。医療者側から家族の世界観(当り前の日常の延長線上に死がある)に合わせることの気づきができました。
    8050問題の深刻さを知ることができました。後に繋げる行政の存在を知ることができて良かったです。
    初回のカンファレンスの大切さ、重要性を再確認できました。
  3. 薬剤師
    今回の患者さんは末期がんの方で急変することも考えられたため、いつ在宅看取りの説明、意向確認をするか難しいと思いました。迅速な対応が求められると思いました。
  4. 福祉用具専門相談員
    今回の症例は家族間のコミュニケーション不足、息子さん兄弟の温度差と無関心、息子さんの不安感は、自宅で亡くなられるとどうして良いのかが判らない、というお母さんの病状を心配しているよりも、自分自身に降りかかる事を何とかしたい、と感じている気持が強かったのかと思います。お母さんが居なくなる、との実感が湧かない状況もあったように感じました。
    救急搬送の要請も自分で考えるよりも、誰かに何とかしてもらいたい。お母さんに何かあるとこれからの自分の生活が出来ない、の気持ちが先にあったのではなかったのかなと感じます。
    お母さんは自宅に戻られた後も、自分で動ける間は息子さんや猫の面倒を見なければならないという義務感で過ごされていたのかと想像します。
    関わられたスタッフの方は、支援し難い状況だったと伺えます。閉じ籠り、ゲームへの依存、残った長男さんは今後の生活、他者との関わりが気になります。
    今までの症例は、家族の協力、理解があっての感覚があり、今回の症例は異例の感じがありました。
    山根様のコメントは共感がありました。恐らく未発達障害があり、普通に見えてはいるのですが自分が関心の持てること以外には思考が停止状態にあり、他人と関わる、家族と関わる、自分の意思を表現する、が苦手な方なのだろうと思います。もしかすると、細かい説明をしたとすると、聞こえてはいるけれど理解は出来ていない。強く話すと怒られている。責められている。と感じてしまい、内心はパニック状態にあるかも知れません。想像でしかありませんが、幼少の子供たちに接したときに感じる感覚が自分にはありました。
  5. ケアマネ
    今回の事例は、ご本人が心配されているご長男、猫のことなどもあり、退院を決心され、ご自宅で看取られた事例でした。救急車を呼ばない決め事になっていたものの、ご長男の呼んでもらいたいとの強い希望で救急車を要請されたとのご報告がありました。それまで元気だった母が急な体調変化があり、今まで不安だった思いがますます強くなってしまったのかもしれないと考えました。今回は、長男のキャラクターがあって、余計にクローズアップされた出来事だったのかもしれませんが、これは、急な変化があった時、どの家庭でも考えられることなのかもしれないと思っています。私たち支援者は経験を重ねてきたことで、いろいろな場面を見てきて、慣れてきたのですが、ご家族からしたら初めての経験だという方も多いと思います。なので、パニックになることはあり得ることではないかなとも思っています。決め事はあるとしても、何か起こってしまった時に、それに対しての体制が整っていることが大切だと思いました。今回、救急隊と片山先生が直接お話をして、救急搬送せずとの判断になったことをお聞きしました。万が一、救急車要請をしてしまった時に、主治医に問い合わせしてくださる体制になっていることが知れたことで、とても安心しました。ご本人、ご家族の個性に合わせた関わり方も大切ですし、今までの生活歴、ご家族の相互関係についても確認しながら、弱さだけではなく、強みにも着目した支援をこれからしていきたいと感じました。ご主人が脳梗塞の後遺症で寝たきりということではありましたが、ご主人に居場所が決まり、安心したことをお聞きしました。コロナ禍で面会はできないにしても、最期にリモートなどで顔を合わせることなどできたのかが気にはなりました。
  6. ケアマネ
    今回の事例は、また別の角度から支援できた事例だったと思います。看取ったあと、残された家族のケア等、気になりながらもなかなか実践していくことができないですが、地域包括支援センターなどいろいろな職種の方につなげていくことも大切であると痛感しました。
  7. 鍼灸マッサージ師
    私の関わった方にも、専門家に任せておけば良いと考える人、当事者の考えよりも自分の考えを優先させる家族などいろんな方がいらっしゃいました。
    それぞれの対応と家族の仲の良し悪しは一概に相関しているとは思えませんでした。
    今回の長男さんはもしかすると自閉スペクトラム症を持っているのかなと思われる部分も感じました。決められたことはする、指示待ちの対応、ゲームばかりしているなどです。
  8. 保健師
    今回の症例のように、支援者の常識にあてはめず、ありのままの家族の形を最期まで続けてもらえるよう支援できたらいいなと思いました。
  9. 介護士
    癌については状態が良好だと思っていても、急に悪化することがあります。患者様の予後日数を逆算すると、一日一日の時間がとても大切になること認識しました。その状況で、どれだけの情報を集約することができるかによって、患者様、ご家族、関わる多職種スタッフの想いがひとつになり、振り返りも明確になるのではと感じました。
    家族の姿。家の日常を守ろうとする母の想い、子を想う母の気持ち、最後まで母としての役割を全うされる姿に感動しました。息子様に母親としてりっぱに家族という形を残されたと思います。
    残されたご家族について、看取りは患者様だけではなく、残されるご家族の日常生活を想定し、看取りケア後もご家族が地域と関りをもって普通の日常生活を過ごせるよう関わっていくことの必要性も感じました。
    家庭環境によって、地域から疎遠になってしまっているご家族もあり、そのようなご家族にも変わりない日常生活を過ごしていけるよう支援に関わっていきます。
  10. 看護師
    私たちも看取りについてカンファレンスで話し合っています。在宅を希望していても、気持ちは変わってもいい。いつでも病院は受け入れできるので安心してくださいと、説明しています。
    今回の症例で、地域ぐるみで連携し合い在宅で看取れたことの意味はあると思いました。今後の私たちの関わりに参考にさせていただきます。
  11. ケアマネ
    「一人で看取るのが怖い」「死ぬのを見るのが怖い」長男さんが感じていた不安は、人間、誰しもが心の奥底に 持っているのではないでしょうか。私たち支援者は、その心の声を受け止め、寄り添いながら支援していくことが大切です。そして、グリーフケアで終了となるのではなく、また別の支援が必要になってくることもあるので、ますます多職種連携の機会は広がっていくと実感しました。
  12. 保健師
    検討会では長男様の相談窓口のことで長々と話しましたが、高齢者の家族支援ということで、一旦、包括の方で相談に応じますのでご連絡ください。
    家族を一つの単位として考えることは大切だと思います。ご家族も支援チームの一人として一緒に関わっていけたらと思います。今回の症例の中で長男様も不安な中、お母様の側で最期まで関わられたと私は思います。
  13. ケアマネ
    今回の症例のように障害の診断はないが「人よりも気にかけるべき」方は、多々おられます。支援者側が早いタイミングでそのような方をキャッチし、家族が障害かもと気付いていない場合でも私たちが支援していくことが大切だと思います。先生の話は理論的に大変よく理解できました。
    会の中でもありましたが、救急隊が直接医師へ確認できる仕組みができていることは感動しました。この八幡浜で皆様とチームで支援できることに感謝しています。
  14. ケアマネ
    今回の症例検討の内容ですが、皆様がお話されていた長男様の件、母親としての愛情、思いをとても考えさせられる内容で有りました。長男様の性格、症状からセントケアの事務所でも今後の支援が必要ではないか、知的、感情面からも軽度の障害が有るのではないかと話題になっていました。後半その話題が出て詳しく、真剣にお話頂いた事が個人的にもとてもうれしく思いました。8050問題は間違いなく有り、その時代の抱え込んだ考えや、世間との関係性の構築が難しいと思います。
    今後、今回のような事例に関わる事が有ると思いますので、その際は地域包括や関係機関と連携し対応していきたいと思います。又事例のご本人様の思いはとても深く、関係者にも打ち明ける事がとても難しかったと思います。ご主人も闘病中で、自分が何とかしなければと、少しでも息子の為に出来る事はしなければと頑張られていたと思うととても胸が苦しく重く感じました。しかし当初Drからの余命の予測以上の寿命を全うされたのも長男様の存在で有ったのは間違いないと感じました。ケアマネとしてお客様の思いや今後の不安を少しでも汲み取り、不安の軽減に努める事が出来るよう今一度自分の仕事を振り返り、現状も把握していきたいと思いました。
  15. 保健師
    大変お世話になっております。
    今回は、同居されている長男の方に何かありそうで(知的?発達?)で、頼りなく、在宅看取りは不安な事例と感じました。しかし、丁寧に支援されて、本人が最後まで猫・多肉植物・息子の世話という役割を最後まで果たすことができたと思います。
    長男が救急車を呼んだ時、医師・救急隊員・長男とのやり取りで、長男が、不安ながらも家で看取ることにしたというお話もとても貴重で勉強になりました。
    また、今回は、淀川キリスト教病院の山根先生が参加され、心療内科医からの視点の意見もお伺いできたので勉強になりました。
    (これは、個人的意見ですが、)山根先生は、最近『BPSモデルで理解する誰もが知っている「緊張」の誰もが知らないアセスメントとアプローチ』という本を出版され、それを読んだばかりなので、感激でした。8050問題など、山根先生のお話をじっくり聞いてみたいです。
    今後とも、よろしくお願いいたします。
  16. 医師
    淀川キリスト教病院の山根先生がご参加くださりありがとうございました。日本心療内科学会、日本心身医学会ではお世話になります。今後とも、引き続き検討会にご参加いただき心療内科医の立場からご指導いただけますようお願い申し上げます。

愛媛県在宅緩和ケア推進協議会

「えひめ在宅緩和ケア」

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県内の在宅緩和ケアの現状やモデル事業の取り組みを、愛媛新聞に掲載されました。
許可をいただきPDFを掲載しました。ぜひご覧ください。
2019年1月7日~22日 愛媛新聞掲載

掲載許可番号
d20190822-006