第38回 八幡浜在宅緩和ケア症例検討会

  1. 場所:八幡浜医師会館3階 会議室
  2. 日時:平成29年5月17日(水)午後7時~8時30分
    <症例>82才、男性
    <傷病名>切除不能進行癌

【課題】食欲はあるが食事摂取が困難な場合、食欲をどのようにすれば満足いただけるか?

 症例経過は主治医:矢野医師より報告されました。
がん終末期には、食欲低下による食事摂取が不能となる方は多いですが、本例では、食欲はあるが食事をとると嘔吐してしまうとのことです。
この状態像をどのようにとられえ、解決の道を、多くの専門職で意見交換、議論を深めました。

    <議論の要点>

  1. 八幡浜保健センター・健康栄養係より、バランスの良い食べ方や食欲を引き出し、おいしく食べてもらうための工夫について報告していただきました。
  2. 通過障害があるのであれば、ステント挿入処置もありえる。
  3. 食事形態:例えばアイスや氷などを口に含んでもらい、そのまま食べるようにする。氷のかけらでも満足される方はいる。
  4. 肝臓癌の終末の方で鍼灸の理論を応用して食事が可能になった例があった。
  5. なぜ嘔吐してでも、食事を摂取しようとするのかその背景となる家族事情や心理的な意味を理解し調整する必要があるのでは。
  6. 薬の調整を工夫する必要があるのでは。コルチコステロイド薬(デカドロンなど)。
  7. 食べることに向かうことが、ご本人にとって生きる証しとなっているのでは。
  8. 共にどう生きていくか、どう支えるかを深く考えることが重要。決して、何とか吐かずに食べさせようとは思わない。
  9. 身内に食道癌の方がいていっしょにうどんを食べに行ったことがあったが、少しずつだがおいしそうに出汁を飲んでいたことを思い出した。
  10. 「してあげる」関わりから脱却しなくてはならない。
  11. その他、多くの意見がありました。

様々な職種の方から発言がありました。今後の緩和ケアに生かせるヒントを共有して会を終了しました。

<まとめ>

① 通常癌患者で、死が近づいた場合、食事摂取の低下は自然経過である。
② 上図のように縦軸に食欲、横軸に嘔気、嘔吐の度合いを区分して整理。
③ 図の中で、該当する現象を抽出し、消化器癌に合併しやすい通過障害の有無で細分し考える。
④ 通過障害があり、イレウス発症時には、サンドスタチン持続皮下注を考慮する。
⑤ 本症例では、Ⅱに該当する。薬剤は鎮吐剤を主体として考え、食形態を工夫する

1)がん悪液質は飢餓とは異なる病態であり、食事摂取量の低下に代謝異常を伴う。
2)食欲不振・悪液質症候群(Cancer-related anorexia-cachexia syndrome:CACS)、がん関連倦怠感(Cancer related fatique:CRF)には炎症性サイトカインが関連している。
3)食欲不振・倦怠感ともに二次的な原因を見落とさないことが重要である。
4)食欲不振・悪液質症候群の薬物療法には、コルチコステロイド、プロゲルテロン製剤、エイコサペンタエン酸がある。
5)がん関連倦怠感の薬物療法にはコルチコステロイドがある。

<参加者数と職種構成比>

合計  84名
医師 9名 社会福祉士 5名
歯科医師 2名 ケアマネ 26名
保健師 6名 介護 3名
薬剤師 11名 その他 3名
看護師 18名 事務 1名

    <アンケートから>
    以下に参加者からのメッセージをまとめました。

  1. 歯科医師
    初めて参加させていただきました。いつも大変お世話になっております。皆様の一言一言がとっても勉強になりました。感謝いたしております。症例とこの話は別にしで、私の身内の話しですが食道がんで食べられないと分かっていながら「外食をしよう」と一緒にうどんを食べに行き目の前で話をしながら、私はうどんを食べ、本人は出汁を飲んで「うまかった」と言っていたのを思い出しました。すみません。脱線していたらご了承ください。今後ともよろしくお願いいたします。
  2. 薬剤師
    症状改善の話しだけでなく、患者様の生きざまにまで話が深まり大変参考になりました。
  3. 保健師
    がん患者さんの支援の場合医療を中心に考えますが、鍼灸が効果をもたらすことがあるなど新たな可能性を知ることができました。関われる姿勢の奥深さを学びました。今後も参加させていただき、学習させていただければと思います。
  4. 看護師
    多職種の意見交換で有意義な会だったと思います。矢野ドクター、CD、医師会訪問看護の方々の関わり方もとても上手に対応ができ素晴らしいと思います。患者さんと向き合う、家族と向き合うのはとても難しく戸惑うことも多くあります。いつもこれでいいのだろうか・・患者さんにとって満足いくものだろうかと悩んでいます。皆さんの意見を聞き、今後どのように関わっていくかを日々努力していきたいと思います。
  5. 看護師
    これまでと比べて聴講人数が増え、色々な職種の人から積極的な意見が出ていて面白かったです。食事がとれない患者さんのケアは病院でも同じで興味深い内容でした。今回も、吉田さん、太田さんのお話は本当に勉強になり,明日からケアに活かしていけるよう努力していきたいと思います。有難うございました。
  6. 看護師
    食事にこだわらず、ご本人の意見を大切にすることが必要と感じました。
  7. 看護師
    症例、現在治療中の方の検討会、各専門職種の方々の意見交換に広がりがあり、今までにない活気と熱意がありました。これからも今日のような検討会をお願いします。
  8. ケアマネ
    ありがとうございました。とても楽しい会でした。私の父は胃癌から十二指腸の転移で通過障害があり、“血のしたたるステーキ”が食べたいのに食べたら吐いてしまうと嘆きながら亡くなりました。もっと優しいかかわりがあったのかな、と父の姿を振り返りながら思い出しました。先生方やいろんな職種の方々の思いをたくさん聞かせていただきました。参加させていただき有り難うございました。
  9. ケアマネ
    私が担当している方で、食欲低下に対して家族が不安(食べないと悪くなると思うので、食べなさい食べなさいと本人についつい言いすぎてしまう)を持たれるケースがあります。一日のうち、朝は比較的食べられているという部分で、少量でも口から摂取できた満足感に本人、家族と共に共感し話を聞いたり、寄り添った支援ができればと思いながら対応しています。症状は少しずつ進行していくと思いますが、その中で本人、家族の励み、支えになりながら最後までその人らしく生きて行けるような支援の手助けができるよう、医療職と連携を図って行けたらと思います。
  10. ケアマネ
    食事表を見せていただいて思ったのは、吐く日もある一方吐くこともなく一日食事をされている日もあるのでこの違いは何なのか知りたかったです。もし、日中の心の変化、楽しいことがあった日は食欲があったのか、また会話がなく過ごした日は吐くことが多かったのか知りたかった。医学的に心の変化イコール食欲と考えるのは短絡的な考え方とは思いましたがターミナルの方には必要な気遣いではないかと思いました。食欲は、意外に話をすることで口腔周りを動かすことでスムーズに喉を通りやすくなることあるのでは、その為にもしっかり話をする場面つくってあげる支援をして欲しいです。会の進め方の一つの案として、職業別にグループを作り、グループ内で話をしそして」発表する様にすれば活発な意見が出るのではないでしょうか。
  11. ケアマネ
    死が近づいてくる恐怖、これから起こりうる大変な症状などを思うだけで計り知れない辛い状態のときの方に、周りからどのような関わりをしていけるのかを考える機会となりました。多職種の方たちから、真剣なご意見を専門的な考え方できくことができました。奥様1人の介護は無理なのでご家族、さまざまな専門職のそれぞれの協力が今後も必要だと思います。痛いとき、眠れない時などにも心の支えや安心感が得られるよう、ご家族が少しでも心に余裕を持って関わるようお手伝いが必要かなと思いました。
  12. ケアマネ
    言葉の奥の思いや希望、それを尊重するケア、辛さを共有してかみしめるという言葉に逃げずに向き合うことの大切さが分かり勉強になった。
  13. ヘルパー
    周りは食べさせてあげたいのに本人は食べることが苦痛だった母を思い出しました。二年前に亡くなりました。乳癌でした(90才で)「死にたい・・・」としきりに言っていた母の言葉を聞く辛さがありました。勉強になりました。

愛媛県在宅緩和ケア推進協議会

「えひめ在宅緩和ケア」

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県内の在宅緩和ケアの現状やモデル事業の取り組みを、愛媛新聞に掲載されました。
許可をいただきPDFを掲載しました。ぜひご覧ください。
2019年1月7日~22日 愛媛新聞掲載

掲載許可番号
d20190822-006