第106回 八幡浜在宅緩和ケア症例検討会

  1. 場所:WEB会議
  2. 日時:令和5年7月7日(金);午後7時~8時30分

<症 例>
  80歳代前半 男性
<傷病名>
  膵神経内分泌癌
<挨 拶>
  開会挨拶
   八幡浜医師会会長
    芝田 宗生 医師
<発表者>
  座 長
   旭町内科クリニック
    森岡 明 医師
  ①家族状況などの説明
   八幡浜医師会居宅介護支援事業所
    清水 建哉 コーディネーター
  ②症例報告
   中野医院
    中野 憲仁 医師
  ③訪問看護ステーションからの報告
   八幡浜医師会訪問看護ステーション
    坂本 美恵子 看護師
<症 例>
報告内容;PDFファイルをダウンロードしてご参照ください
第106回八幡浜在宅緩和ケア症例検討会資料

<議論の要点とコメント>

●在宅医が外来通院中からの「かかりつけ医」で、がん発症後も主治医が変わらず、一貫して看取りまで関わった症例で、家族の思いもうまく受け止めながらの理想的な経過だった。

●昭和初期世代の夫婦で、亭主関白な夫に忍耐強くかかわってきた歴史の中で、妻の「夫の最後は入院で」の希望がかない、夫の死を妻なりの充実した満足感の中で迎えることができた一例だった。

●キーパーソンであった次女も乳がんのため化学療法中で、そんな状況の中でも母をいたわる気持ちが強く感じられ、このような事情からも入院看取りに移行したことは、家族の介護負担軽減と家族危機を乗り切るためにも必要だったと思われた。

<職種別参加者数>

合計  66名
医師 9名 社会福祉士 3名
歯科医師 2名 ケアマネ 10名
保健師 2名 介護 6名
薬剤師 7名 その他 4名
看護師 22名 事務 1名

    <アンケートから>
    以下に参加者からのメッセージをまとめました。

  1. 看護師
    事例に登場する患者や家族それぞれの人間像や家族の背景などがみえて、毎回関わった皆さんの凄さを感じます。
  2. 医師
    大田先生のコメント「在宅看取りには、在宅医、本人、家族の3つの覚悟が必要」が印象的でした。発表をお聞きし、在宅医やメディカルスタッフの皆さんの覚悟は並々ならぬものがあると感じました。ご本人の覚悟は、覚悟というより「自由な家が良い」という希望だと思いました。一方で、家族の覚悟の質は確認しにくかったように思います。患者の言う「自由」は、奥様の献身的な介護によって担保されたもので、奥様なしではあり得ない形だったと思います。在宅療養で奥様が背負う責任は今までの人生で最大の責任と感じられたのではないかと思いました。ここにきてまた私が?という、半ば諦めに近い責任感で介護されていたのではないでしょうか。ディスカッション終盤に語られた「(入院できて良かったという発言は)責任の分散による安堵」は同感でした。墓参の際、半ばすっきりされていたのは、やはり責任からの解放だったのではないかと想像しました。
    「昭和初期の男性」の傍にいる典型的な「妻」の特徴は受動性だと思います。やって当たり前、意見すべきでないと思っておられたかもしれません。経過のどこで吐露してもらえたか分かりませんが、「最後は病院で」の背後にあるものを聞く際に、夫を支えるモチベーションは何か、とお聞きして、吐露される思いを探ってみても良かったかもしれません。またおそらく想いの異なる娘さんがどうしたいかも聞いてみたかったです。おそらくただ母をサポートしようという一心だったと思うと、娘はそれほど自宅で世話をしたいとは思ってらっしゃらなかったかもしれません(もちろん、症状緩和が容易なケースなら変わっていたかもしれませんが。)色々と想像で書いてしまいました。色んなことを感じさせてもらえる議論でとても有意義でした。
  3. 薬剤師
    多職種による多角的目線から緩和ケアを考えるという本会議は、一医療従事者として大変勉強になりました。
    一点ご提案になるのですが、本患者がBSCとなってからの処方状況、服薬状況が11/21以降記載はなかったので今後可能であれば記載いただけると薬剤師として助言できる点が増えるかと思いますのでご検討ください。
  4. 看護師
    「入院のタイミング」なかなか難しいですが、家族が納得し満足できたなら病院に着いてすぐ亡くなっても、その時がベストのタイミングで良かったのではないかと思いました。
  5. 薬剤師
    治療されている方を含め、ご家族のフォローをしていくことが緩和医療では重要だと分かりました。
  6. 薬剤師
    今回の患者さんは中野先生が担当されており、薬局は在宅での関わりはありませんでしたが、恐らく外来で患者のご家族がお薬を取りに来られていた方のことだと思います。中野先生も仰られていた通り、背景がご家族に対して患者さんがどの様な態度をとっていたか等を知らなかったので驚きました。
  7. ケアマネ
    1/8に、洗面器いっぱいの嘔吐があり、かなりの量の嘔吐でご家族はかなり、驚かれ大変だった(怖かった)ことと思います。これが、今後続くのなら、しんどい・・・最後は病院でと思っておられたご家族の立場だったら、この時に病院へ運んでほしかったのではないか?とか事例を読みながら、いろいろ考えさせられました。
    ケアマネとして後から思うには本人様、家族様の思いをもう少し先から聞いておくことが出来たら・・(結果は変わってしまう場合もあるが)と、思いました。
    しかし、ご家族の関係性が大変だった中、夜間の排泄介助や食事、お正月にはビールや、好きなにぎりや刺身を食べさせてあげたり、お風呂が好きだったからと訪問入浴を利用されたり、背中をさすってあげたりご家族なりに一生懸命されたと思います。私も担当している中で、今は元気ですが「最後は病院で」と言われているご家族がありますが、しっかりとご本人様、ご家族様のお話しを聞くことから始めてみます。
  8. 薬剤師
    入院のタイミングは私もいつも悩みます。
    今回の奥様は本当によく頑張られたと思いました。
    夫婦間のパワハラ問題は私も課題です。私たちが看て、「キツイな」と思うことでも本人たちには当り前だったり、その逆だったり、何をもってパワハラなのかは難しいと思います。奥様が恐怖を抱えているのであればパワハラなのかもしれません。私も今後の課題として取り組んでいきます。
  9. 薬剤師
    患者さんやご家族の満足の在り方にも色々あるのだと考えさせられました。家族関係にも様々な課題があるようです。家族関係のパターンと介入方法のセオリーなどはあるのでしょうか。
  10. ケアマネ
    ご家族の希望通りの経過で最期は病院へ行くことができ満足だったように思います。家で看られる間は家で過ごし、対応が難しくなれば病院と思っている方は多く、死がどのように訪れるのかへの恐れを日頃感じています。支援者として覚悟を持って支えていけるよう、不安を包み込み、そのまま一緒に並走していきたいと思います。また気持ちを捉えることについて、その場その場でキャッチしていこうと思いました。
  11. 理学療法士
    緩和ケアにおいてのリハビリはなかなか介入が難しいことが多いと思います。しかし、患者様、その家族様が訪問、通所リハビリの利用を望まれているケースではスムーズに受け入れできるよう努力していきたいです。
  12. 介護士
    ご夫婦の生活歴から、奥様の精神的負担・介護に対する不安感に対して、在宅での看取りケアを進める時の、繊細な部分を感じることができた。
    訪問介護の私達は、ご本人様、ご家族に寄り添いながら安心し在宅で過ごすことができるよう支援させていただきますが、今回の事例のように結婚生活から自分を押し殺して家族を支えてきた奥様の精神的、肉体的負担を考えると介護者の気持ちを傾聴し適切にアドバイスすることの必要性をあらためて感じました。
    在宅での看取りを納得されたものの、やはり様々な介護者の苦痛を考えると、適切な状況で適切なタイミングで支援を行う。
    在宅での看取りを進める時の、家族の生活歴から入院の必要性のタイミングに気を付けることを学びました。
    「最期は病院で亡くなってよかった」と奥様の声があった。こういった言葉をしっかり聞き漏らさないことで、私達の経験を積むことに繋がります。介護者があっての看取りケア、介護者の強さや家族愛を引きだすことも必要ですが、奥様が家族の為に今まで辛抱してきた気持ちを考えると、ご本人の意思決定を大切にしながら、奥様のゆとりや自由な時間を確保することも確保しなければならないと考えました。
    最後まで妻として奥様は家族をしっかり支えられたことに、忍耐・辛抱強い素晴らしさを感じました。
  13. 看護師
    当院でも癌末期の患者に対して、退院前カンファレンスで医師・多職種交えどのように最期を迎えたいか話し合い、寄り添っています。退院後は訪問診療にて外来看護師がケアマネや訪看と連携し、できるだけ患者・家族の思いに添えるようにしています。ただいつでも当院への入院は可能であることを伝え、安心して在宅で過ごせるように。ただ最後は病院でという家族もあり、そこは家族がもう家ではだめだと思った時点で入院を受け入れています。
  14. 作業療法士
    今回の症例検討会に参加させていただき、本人様とご家族様の気持ちを汲み取りながら関わりを持つことの大切さを感じました。また、他職種のみなさんと情報を共有することの重要さを改めて感じました。
  15. 介護福祉士
    緩和ケアについて様々な方法や考え方があり、最期まで最善を尽くされていることがよくわかりました。通所に通われている利用者様やご家族様が利用できる間は何としてでも行きたいと思えるような施設にできるようこれから努力いたします。
  16. 看護師
    通過障害がある場合、マーゲンチューブはしてあげた方が本人の苦痛は少なかったように感じました。嘔気、嘔吐の苦痛は本人のみならず家族もどうしたら良いか不安だったと思います。
    最終的に病院に搬送されて妻は、解放、安心されたのだと感じました。
    腫瘍破裂を経験したことはないですが、家の中は壮絶だったと予想できます。
    妻が後悔なく見送れたことに安心しました。
    本人、家族、医療者の覚悟の相互理解は何度も話し合い確認し合ってもすれ違うこともあると感じました。
    本人に寄り添い、家族に寄り添い、自分自身(医療者達)にも寄り添ったターミナル看護ができれば良いと感じました。
  17. ケアマネ
    発表の中で、デイの方から受け入れをするためには、急変時の体制が整うことが重要だということ、また、たとえガンの告知を受けても慣れ親しんだデイで受けてもらえるのが心の支えではないかという意見がありました。一人ひとりの方には生きてきた歴史があり、その人生の中で、ガンの告知を受けてからも今までと変わらない生活が送れることが、ご本人にとってどれだけ救いなのか改めて感じました。
    初回の訪問診療の際に奥様より『最期は病院で』との思いを話されていましたが、そのコトバだけを聞くと、最期は家ではなく・・・と捉えることができます。しかし、奥様の病気のことや周りの環境のことを考えたら、これから先の不安があり、その不安の中から出たコトバだったのかもしれないとも思いました。
    最終的に病院に搬送されましたが、「病院に来れてよかった」と奥様からのコトバがありました。夜に、嘔吐やタール便などアクシデントがあったことで、本当に大変だったと思いますし、不安が大きかったことも予想されます。今回、初めから『最期まで家で』と力んで過ごしていたら、搬送する判断にはならなかったかもしれません。
    何が正解かはわかりませんが、ご本人、ご家族の出した決断を後押しできるような支援者になりたいと思いますし、ご本人やご家族から聞かれたコトバの本当の思いを見極めていけるような技術を身につけていけたらと思います。
  18. ケアマネ
    今回の症例を視聴ささして頂きまして、お元気な状態から緩和ケアに切り替えての対応になったケースで有り、ご本人、ご家族の心境の変化や、サービス調整等大変だったと感じました。
    奥様、娘様も癌と闘病されていた中でご主人も癌に侵されており、心情的に最後にわかった夫が先にお亡くなりになる事への受容がなかなか難しかったのではないかと感じました。 
    終盤の話題になった「最後はどうしても病院で」との希望や、病院搬送については事業所内でも話をしていましたが、訪問介護所長が言われていたのが、奥様も近々癌治療の為病院に入院する予定になっていたご様子だったとの事でした。奥様としては死への受け入れや、不安、責任の軽減もあったと思いますが、もしこのまま持ちこたえながら過ごす事になると、自分の治療が始まったらどうしようかという思いもあったのかもしれないと感じました。
    3人が発症部位は違いますが癌という病気と闘い、今後も闘わないといけない奥様、次女様は今後の自分と重ねながら支援されていたのではないかと感じました。
  19. 保健師
    今回の症例については、夫の暴言・暴力など、家族の中でいろいろあったのかもしれませんが、もともとかかりつけ医の中野先生にギリギリのところまで家で診ていただけたことは、在宅緩和ケアの理想の形ではないかと感じました。また、デイケアとの連携等も大変勉強になりました。
  20. 医師
    私が担当しております施設にも悪性リンパ腫の再発、胸水貯留の入居者がおられ、近日中に緩和ケアへの移行が予想されています。また、悪性腫瘍以外にも、心不全や誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返している方もおられます。ご本人もご家族も施設での看取りを希望されていることもあり、今後、ご相談させていただきたく思います。

愛媛県在宅緩和ケア推進協議会

「えひめ在宅緩和ケア」

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県内の在宅緩和ケアの現状やモデル事業の取り組みを、愛媛新聞に掲載されました。
許可をいただきPDFを掲載しました。ぜひご覧ください。
2019年1月7日~22日 愛媛新聞掲載

掲載許可番号
d20190822-006