第85回 八幡浜在宅緩和ケア症例検討会

  1. 場所:WEB会議
  2. 日時:令和 3年8月6日(金);午後7時~8時30分

<症 例>
40歳代後半 女性
<傷病名>
尿膜管癌
<発表者>
  座長は、旭町内科クリニック;森岡 明 医師
  ①家族状況などの説明
   居宅介護支援事業所 つわぶき荘:黒田 幸恵 ケアマネージャー
  ②治療の経過
   市立八幡浜総合病院 泌尿器科:副院長 武田 肇 医師
  ③症例発表
   旭町内科クリニック:院長 森岡 明 医師
  ④訪問看護の経過について
   訪問看護ステーションSetsuko:所長 菊池 世津子 看護師
  ⑤調剤薬局の発表
   かざなみ薬局:阿部 隆三 薬剤師
<症 例>
報告内容
PDFファイルをダウンロードしてご参照ください

<議論の要点とコメント>

●患者さんの態度や言動の裏に隠された社会的な痛みやスピリチュアルな痛みを理解することについて。

●患者さんの意思決定に思春期にある未成年の子供たちが重要な役割を持った症例で、このような背景を理解しながら患者さんがどのような生活を望んでいたのか、多くの視点からご意見が出された。

<職種別参加者数>

合計  74名
医師 8名 社会福祉士 5名
歯科医師 1名 ケアマネ 15名
保健師 6名 介護 6名
薬剤師 7名 その他 2名
看護師 23名 事務 1名

    <アンケートから>
    以下に参加者からのメッセージをまとめました。

  1. 薬剤師
    本症例であったようにケアで重要な清拭をただやればいいというものではなく、信頼関係の構築のためにも患者さんの意見を聞きながら進めていく医療が大切であることを学びました。
  2. 薬剤師
    本症例の患者さんは「我慢強い方」ということでしたが、ただ痛みに次要だけなのか、それとも誰かのために、何かのために思いを押し殺していたのか、色々考えさせられる内容でした。真の問題点、根っこの思い、そういったものを拾い上げられるようにしたいです。
  3. 看護師
    今回の事例は、利用者の方が若く、色々な問題を抱えていて、それぞれの職種の方の関り等勉強になりました。
  4. 薬剤師
    今回の患者さんが40代で若く、未成年のお子さんが2人いらっしゃったので、本人だけでなく家族のケアという面でも気を使うし大変だったと思います。本人さんの性格のこともあり、十分な対応ができなかったかもしれないとのお話でしたが、先生をはじめ症例に関わった全てのコメディカルの対応は素晴らしいと思いました。子供さんが未成年で母親の病気を一番近くで見て、接することは辛いこともあったと思いますが、家で一緒に過ごす時間が持てたことは本当に良かったと思います。
  5. 看護師
    子育て世代、母子家庭、若い世代の看取では、子供さんへのフォローを含め、関りのある方が一層大変になってきます。最後まで在宅で過ごしたいと決められていても、状態の悪化や家族の不安等から入院になるケースもあると思いますが、最期まで在宅で過ごされたのは、本人の覚悟、色々なサポート、家族の協力によるものだと感じました。子供さん方がお父さんと一緒に今後を共にされることに同世代として少しホッとした気持ちがします。
  6. 看護師
    本人と子供さんとの周りに、医療者、家族、学校や社会的支援の方などたくさんの関りに支えられての看取りで、本当に自分ならどんな関りができただろうと思います。素晴らしいかかわりの中で、看取りまで行けてと思います。子供さんの思いや子供さんを思う本人(母親として)の思いを考えると、本当に皆さんの苦労、大変さを思います。症例を聞かせてもらいながらも、悩み、迷い、涙があふれそうになりながら聞かせてもらいました。
  7. 看護師
    本人様がケアを拒否される中での支援は、大変であったと思われます。痛みが強く、自身の体が思うようにならないことがと医療従事者であったための強さなど、同じ医療従事者として本人様の気持ちもわかるような気がします。市内から30分と遠いところで2名体制の訪問でしたが、最期は本人の希望された自宅で迎えることができ最終的には良かったのではないかと思います。
  8. 看護師
    今回は、年齢も若く、子供さんたちがいる中で、なかなか十分な関りができたのだろうかと思われた症例だったと思います。私もこのような方に対応した時は、かなり悩んで対応したのでみなさんの気持ちが良くわかります。
  9. 医師
    吉田様からの質問に関して補足します。
    病院退院時には、ポータブルや車椅子移乗は見守りのみで可能で、歩行器で廊下歩行訓練・介助で入浴もされていました。おむつ交換時は腰上げ可能で、決して体位変換ができないようなADLではありませんでした。清水コーディネーターが言われていましたが、退院時には何度もまたお願いしますね、と再入院のことの念を押されました。それが在宅ケアをうけるうちに、在宅のままでという気持ちに変わっていかれたものと思います。
  10. 医師
    会で述べたように今日の自治医大の会で自治医大後輩たちに活を入れときました。(笑) 私はいつもの御意見番役ですので、余りインパクトは無かったかもです。でも、もし次回後輩が参加してくれればとても嬉しいと嫌われ役覚悟で苦言を呈しておきました。八幡浜地区の在宅医療の充実と一部の医療・介護事業所のみに過度な負担が掛からない状況構築を願っております。
  11. 保健師
    母が麻薬の使用に関して、とても抵抗を感じているように思い、どのような説明を行ったのかなと疑問に思いました。疼痛コントロールが課題と思います。母の我慢強い性格もあるかもしれませんが、もう少し楽に過ごせられたらと思いました。麻薬を増やすと傾眠傾向にもなり、会話も難しくなるし、やはりコントロールは難しいと感じました。
  12. 社会福祉士
    今回の事例は、娘さん二人がまだ中学生と高校生と若く、母親の見取りにどのように向き合っていったのかを知ることのできる事例でした。
    自身の寿命が短いことを子どもたちに説明するのを躊躇していた中、残される家族のことを思って支援者側が本人に働きかけたり、娘さんたちに丁寧に現状を説明した上できちんと家族の意向を確認されていたり、とても丁寧な関わりをして頂いたと感じました。土地柄、遠距離という訪問サービス支援のデメリットがある中でも、できること・できないこと、サポート体制の構築など、現状を分かりやすく説明していただいたので、娘さんも自分たちの希望のもと自宅での見取りができたのだと思います。
    また、今までの事例の中では、本人・家族に関わった社会資源が一番多かったのではないだろうかと感じました。二人の娘さんの学校の先生との関り方などももっと知りたかったです。
  13. 作業療法士
    対象者様と娘さん達との時間を少しでも多くとれることがとても大切だと感じました。そして、娘さん達のお母さんとの時間を少しでも長く過ごしたいという気持ちに対して、先生をはじめ多職種の方々が寄り添いながら関わりを持っているのがとても伝わってきました。
  14. MSW(医療ソーシャルワーカー)
    マイクの設定がエラーになり、大変申し訳ありませんでした。
    私があの時にお伝えしたかったことを、記載致します。あくまでも、私の私見です。
    日頃から支援の現場で、利用者の方が、頑なにサービスをお断りされる時には、ご自分の中に確固たる「守りたいもの」がおありだからだと考えるようにしています。非現実的であっても、何が何でも死守したい「もの」があると。それが「何」なのかです。
    私が推測させて頂くに、ご本人は、自分ではなく子供たちとお母さんにとって、当たり前の日常を1日でも多く確保して貰きたかったのではないかと考えます。何故そう考えるかは、家に帰っても、子供たちに詳しい病状を伝えず、お母さんにも付き添いをあまり望まなかったからです。家に自分がいることで、「行ってきます」「ただいま」の普段通りを作って、子供たちの動揺をなくし、学校や部活動、総体へ普通に向き合わせたい。だから子供たちは当たり前のように外出しています。それは本人が一番望んでいたことだと思います。子供たちが日常を放棄して自分の傍に居られることはむしろ心が痛む。当たり前に元気でいる子供たちを傍で見守りたいという母親としての想い。そしてお母さんに対しては、我が子の痛む姿を見せたくない。見られたくない。お母さんに世話をされる自分自身の心が痛むので心底辛い。等です。子供たちは外出の機会が多く、ご本人の陰部洗浄の場面を見る機会はほぼなかったと思われますが、お母さんがご本人の意に反して毎日付き添われました。看護師さんの訪問時もお母さんに居られると、一番見せたくない場面を見させてしまう。その辛さを避けるために、「自分が人にお世話をされる場面」を拒んできたのではないかと推察します。
    では、どうかかわれば良いのか。
    お母さんは看護師さんに、自分がどうかかわれば良いのか玄関先で相談をされていました。お母さんもケアの対象者ですので支援が必要です。
    提案として、
    ① お母さんのお気持ちを深層からお聞きし(母であれば毎日付き添うのは普通と考える概念があるとすればそれは捨てて下さい)ご本人が毎日来なくて良いと言っているのに、来てしまう理由を丁寧に教わること。ご本人にしてあげたい気持ち、こうしていなければ居ても立っても居られない、傍に居なければ母としての責任が果たせない等?どこに思いがあるのかをしっかりと教わり、そこをしっかりと受容したうえで、
    ② 実は推測ではあるが、ご本人に上記のような痛む気持ちがあるとしたら?の提案を投げかけ、お母さんがそれをどう理解されるかをさらに丁寧に教わること。お母さんがご本人の思いを理解できたと踏まえたうえで、
    ③ 私達医療者には、ご本人の身体のために清潔管理の目標もあるので、一度お母さん不在でケアをさせて頂けないか?一度試させて貰って良いか?の提案をしてみること はどうだったでしょうか。決してお母さんを仲間外れにするということではなく、お母さんがご本人を思うからこそ、ご本人の思いに寄り添うとしたら?の提案であり、さらに身体にとっては清潔確保ができる手掛かりとなりますので、ご本人への最善のケアについて少しでも近づくことができます。そして、ご本人の純粋な想いを教わる機会も得られます。ご本人と、ご家族とのお互いへの想いあいの橋渡し役を看護師さんが担うという形です。
    後から考えるので、いくらでも言えますし、これがベストというわけではありませんが、一考察として、今後のご参考までにと思います。
  15. ケアマネ
    今日の症例は年齢的にも立場的にも近く感じて、考えさせられました。離婚後一人で、頑張って生きてこられたのだろうなと感じました。医療者としてもっと突き詰めてチェックしたいジレンマを感じながら、本人や娘さんたちの思いを優先に考えられた皆さんの愛情の深さを思いました。本当にお疲れさまでした。
  16. ケアマネ
    今回の事例は、未成年の娘さんがいらっしゃる40歳代の方の事例でした。高2、中3の未成年の娘さんたちは、母親が頑張って一人で自分たちを育ててくれたその背中を見て育っているからなのか、覚悟をもって看取られたと思います。
    ご本人の嫌がることに対して手を差し伸べることができなかったそうですが、ご本人なりに娘さんたちには弱気なところを見せずに「強い母」として最期を迎える姿を焼き付けておきたかったのかもしれません。 黒田CMの作成されたエコマップは、家族、身内の方、関係職種、その他の方々の関わりが一目瞭然にわかり、関係性を理解しやすかったです。
  17. ケアマネ
    今回の事例では、病状をお伝えすることの難しさを感じました。しかし、森岡先生が娘さんたちの思いを汲み取りながら病状を丁寧に説明され、支援された皆様が寄り添い、話し合いを重ねていくことでご家族もしっかり受け入れることができました。皆様の支援の温かさを感じました。ご本人がなかなか支援を受け入れることができない中、いろいろなご苦労があったと思います。母としての強さなども子供たちに見せたかったのでしょう。ご本人のみならず、ご家族の支援の大切さを再度学ばせていただきました。
  18. 福祉用具専門相談員
    今回、40代女性で歳も自分と近く、家族の構成からも考えるところが多い事例でありました。中高生の娘さんの心情、その関わり方で悩んだことだと思います。ご本人の痛みに対する向き合い方、娘さんへの病状告知、できる限りは自分自身で身の回りのことをしたい気丈な方、最期まで家族との関りを大切にした事例と感じました。年齢の近さ、介護への拒否がある場合、自分がどう見極めていくのか考えていきたいと思います。
  19. ケアマネ
    40代シンブルマザーの症例とのことで、他人事に思えない症例でした。ご本人様のお気持ちの揺れ動きや決断されるまでを伺い、苦しい思いもされたのだとお察しします。お子様と一緒に最後まで過ごす選択をされたこと、それを支えるお子様方のお気持ちを想像するだけで、日々の一瞬一瞬を一生懸命に一緒に生きられたのであろうと胸を締め付けられる気持ちでいっぱいになりました。今回関わられたチームの皆様の冷静かつ細やかな支援を学ばせていただき、多職種連携の大切さを強く感じることができました。今後ひとり親の家庭も増え続け、このようなケースも増えてくると考えられますので、私もチームの一員となりうるだけのスキルアップを続けていきたいと思います。
  20. 医師
    ウェルビーイング(well-being)に適切な日本語はありませんが、「身体的、精神的、社会的、スピリチュアルに良好な状態にある」ことを意味する言葉です。「幸福」と翻訳されることもあります。英英辞典では「the state of feeling healthy and happy;健康で幸せな状態」と簡単に定義されていることもありますが、単なる幸せhappinessとは少し異なる概念です。瞬間的な幸せではなく、多面的かつ持続的な幸せと言った状態です。「生きている、生かされている」と日々感じる満たされた状態に近いかもしれません。本症例では、ご本人が在宅でどのような生活を望んでいたのか、どのような過ごし方が本人にとってのウェルビーイング(well-being)だったのか、多くのことを考えさせられた症例でした。

愛媛県在宅緩和ケア推進協議会

「えひめ在宅緩和ケア」

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県内の在宅緩和ケアの現状やモデル事業の取り組みを、愛媛新聞に掲載されました。
許可をいただきPDFを掲載しました。ぜひご覧ください。
2019年1月7日~22日 愛媛新聞掲載

掲載許可番号
d20190822-006